2026年5月、野村證券が日経平均株価の見通し(2026年末時点)を68,000円に上方修正した、というニュースが流れました。
「AI・半導体企業の好業績を反映」という説明を見て、なるほどと思う一方で、ふと気になったことがあります。野村證券の日経平均見通しは、少し前にも上方修正されていなかったでしょうか。
調べてみると、この68,000円という数字は、実はわずか5ヶ月の間に5回目の上方修正でした。今回は、この改定の推移を一次資料で時系列に並べ、「アナリスト予想はどれくらい当てになるのか」を検証してみます。
一次資料で確認:5ヶ月で5回の上方修正
野村證券が公表している「NOMURAウェルスタイル」のストラテジストレポートを時系列で確認すると、2026年末の日経平均株価に対する見通し(メインシナリオ)は、次のように推移しています。

| 発表時期 | 2026年末の見通し | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 2025年12月22日 | 55,000円 | (据え置き) |
| 2026年1月20日 | 56,000円 | 食品消費税ゼロ観測などを反映 |
| 2026年2月16日頃 | 60,000円 | 総選挙結果と決算を反映 |
| 2026年5月8日 | 63,000円 | NT倍率(日経平均÷TOPIX)の上昇を反映 |
| 2026年5月26日 | 68,000円 | AI・半導体企業の好業績を反映 |
(出典:NOMURAウェルスタイル、各回のストラテジストレポート。いずれも2026年末時点のメインシナリオ)
55,000円から68,000円まで、5ヶ月で13,000円(+23.6%)の上方修正です。1つ1つの改定には、その時点なりの根拠が示されています。ここで気になるのは、「その根拠は、改定の理由として妥当なのか」ということと、「そもそも、なぜこんなに頻繁に改定が必要になったのか」という2点です。
検証:改定は「後追い」だったのか
そこで、各改定日の直前の実際の日経平均株価と、見通しの水準を比較してみました。
| 改定日 | 見通し(2026年末) | 直前の実勢株価 | 実勢株価の到達率 |
|---|---|---|---|
| 2025/12/22 | 55,000円 | 50,402円 | 92% |
| 2026/1/20 | 56,000円 | 52,991円 | 95% |
| 2026/2/16頃 | 60,000円 | 56,806円 | 95% |
| 2026/5/8 | 63,000円 | 62,714円 | 99.5% |
| 2026/5/26 | 68,000円 | 64,996円 | 96% |
改定のたびに、その時点の実勢株価はすでに見通しの92〜99.5%まで到達していました。特に2026年5月8日の改定(63,000円)に至っては、直前の実勢株価が62,714円と、ほぼ見通しに並んでいた状態です。
さらに、直近のデータで確認すると、5月26日に「2026年末68,000円」と改定したにもかかわらず、わずか1ヶ月後の6月25日には、実勢株価が72,366円まで上昇し、2026年末の見通しを半年以上前倒しで突破してしまいました(その後は調整が入り、7月17日時点では64,141円)。
これらの事実を踏まえると、今回の一連の上方修正は、将来の株価水準を先読みしたというよりも、すでに動いた株価に見通しの数字を合わせにいく形になっていた、と捉えるのが実態に近いと考えます。
フェアに見ておきたい点:デタラメな予想ではない
ここで公平のために付け加えておきたいのは、野村證券が根拠のない数字を出しているわけではない、という点です。
各回の改定では、TOPIXのEPS(1株当たり利益)増益率の見通しや、PER(株価収益率)の想定水準が、その都度きちんと積み上げられて説明されています。たとえば2026年5月26日の改定では、AI・半導体企業(ソフトバンクグループを除く)の経常利益が2026年度に倍増する見込みであることを反映し、従来のトップダウンモデルでは捉えきれていなかった部分を、個別企業のアナリスト予想を参照する形で補正した、という説明がなされています。
つまり、「その時点で入手できる最新の材料を、真摯に数字に反映し続けた結果」として、頻繁な上方修正になっているという見方もできます。これは「予想がいい加減だ」という単純な批判とは少し違う話です。むしろ、「株価予想というものが、そもそも構造的に後追いになりやすい」という理解の方が、実態に近いのではないかと思います。
アナリスト予想はどう作られているのか
ここで少し、株価見通しがどのように計算されているのかを整理しておきます。野村證券の場合、大まかには次のような構造で数字が組み立てられています。
株価見通し = 予想EPS(1株当たり利益)× 想定PER(株価収益率)
- EPS予想:企業の決算や業績見通しをもとに、今後の利益成長率を積み上げて計算する
- PER想定:市場がその利益成長に対して、どの程度の「倍率」を払う気があるかという、投資家心理・需給を反映する数字
このうち、EPS予想は比較的、決算という一次資料に基づいて更新できますが、PERの想定は「市場の気分」に左右される部分が大きく、直近の株価の勢いに引っ張られやすい性質があります。今回の改定でNT倍率(日経平均÷TOPIX)の上昇を反映した、という説明があったのも、まさにこのPER想定の部分の調整だったと考えられます。
こうした構造を踏まえると、株価見通しが実勢株価を追いかける形になりやすいのは、ある意味で自然なことだと言えます。
読者への実務的な示唆
この検証から、個人投資家にとってどんな示唆が得られるでしょうか。
長期・積立・分散でインデックス投資をしている場合、個別のアナリスト予想(「年末〇〇円」といった目標株価)を根拠に売買のタイミングを判断することには、慎重になった方がよいと考えます。今回見たように、目標株価自体が数ヶ月単位で大きく動きうるものであり、しかもその動きは実勢株価を後追いする傾向があるとすれば、「予想が当たったから買う/外れたから売る」という判断軸は、思っているほど安定した拠り所にはならない可能性があります。
もちろん、アナリストレポートには、EPS成長率の分析やセクター別の視点など、参考になる情報も多く含まれています。「目標株価という単一の数字」だけを切り取って一喜一憂するのではなく、その背景にある業績分析の部分を読む、という付き合い方の方が実務的には有益だと考えます。
データ出典
本記事で使用したデータの出典は以下の通りです(すべて2026年7月時点で確認)。
- 野村證券「NOMURAウェルスタイル」ストラテジストレポート各回(2025年12月22日、2026年1月20日、2026年2月16日頃、2026年5月8日、2026年5月26日配信分)
- 日経平均株価の終値推移:Yahoo Finance(yfinance経由、2025年12月1日〜2026年7月17日)
まとめ:読者の状況別に整理する
① インデックス投資を長期・積立で続けている人 今回のような目標株価の改定ニュースに、売買判断を左右される必要は薄いと考えます。長期・積立・分散という基本方針であれば、個別の年末見通しがいくらになろうと、方針自体を変える理由にはなりにくいはずです。
② アナリストレポートを参考に投資判断をしている人 目標株価という数字だけでなく、その根拠となっているEPS成長率やPER想定の妥当性まで読み込むことをおすすめします。今回のように、改定の背景を時系列で追ってみると、その予想がどの程度「先読み」で、どの程度「後追い」なのかが見えてきます。
③ 「予想が当たるかどうか」に関心がある人 今回のケースは、5回の改定すべてが上方修正であり、しかも実勢株価が見通しを追い抜く形で進みました。上昇相場では「後追いの上方修正」が続きやすい一方、下落相場でも同じように「後追いの下方修正」が起きやすいと考えられます。予想そのものより、その予想がどう作られているかの構造を理解しておく方が、長期的には役に立つのではないかと思います。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の証券会社・アナリストの予想の当否を断定的に評価するものではありません。記事内で紹介した野村證券の見通しは、各配信時点でのメインシナリオであり、その後変更されている可能性があります。株価の将来動向を保証するものではなく、投資の意思決定は、必ずご自身の判断と責任において行ってください。

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