金が26%下落しても、ゴールドプラスは機能したのか
以前、当ブログの「ゴールドプラス徹底検証」シリーズ(全4回)で、株式に金を100%上乗せする実質200%運用のレバレッジ型ポートフォリオを、過去20年のバックテストで検証しました。結論は「シャープレシオ(リスク調整後の運用効率)を高める、規律ある投資家向けの選択肢」というものでした。
それから時間が経ち、2026年に入ってから金価格は大きく動いています。年初には過去最高値圏まで上昇したものの、その後は7月半ばにかけて26%を超える下落局面もありました(詳細は後述します)。ゴールドプラスの狙いの一つは「株式との無相関性によってシャープレシオを最大化すること」でしたが、金自体がこれだけ動いた局面で、その狙いは実際に機能したのでしょうか。
さらに2026年3月には、全世界株式(オルカン)に金を上乗せする新商品「Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス」が設定され、約5ヶ月分の実際の値動きデータが蓄積されました。理論上のバックテストと、実際に運用されている商品の値動きは一致するのか。今回はこの2点を軸に、2026年最新データで検証続編をお届けします。
なお本記事は、以下の元シリーズの続編です。仕組みの詳細な解説は元記事もあわせてご覧ください。


おさらい:ゴールドプラスとは何か
ゴールドプラスとは、投資信託の中で先物取引を使い、「株式100%」と「金(ゴールド)100%」を同時に保有しているのと同じ経済効果を、実質的に200%の想定元本(ノーション)で実現する運用手法です。1万円を投資すると、1万円分の株価指数と1万円分の金価格、両方の値動きを取り込むイメージです。
この仕組みが成立する背景には、株式と金の無相関性(値動きの連動性が低いこと)があります。株式が下落する局面で金が値上がりする、あるいは逆連動することが歴史的に多かったため、両方を同時に保有することで、ポートフォリオ全体の値動きの振れ幅(ボラティリティ)を抑えながら、リターンを積み増せる可能性がある、というのが基本的な考え方です。
ただし実質200%の想定元本を作るには、株式や金の現物保有に加えて先物取引を活用するため、追加の100%分について金利コスト(資金調達コスト)が発生します。この金利コストは主に米国の短期金利(本記事では13週T-Bill利回りを使用)に連動しており、後述するように2026年時点では歴史的な平均より高い水準にあります。
そして元記事#45で示した本来の狙いは、単に絶対リターンを最大化することだけではなく、株式との無相関性を活かしてシャープレシオ(リスク調整後の運用効率)を高めることにありました。この「効率性」の観点が、直近の金価格変動でどう変化したのかが、今回の検証の核心です。
データの出典
- S&P500・金・米国短期金利:Yahoo Finance(yfinance経由)。ティッカーは S&P500指数(^GSPC)、金価格の代理指標としてSPDRゴールド・シェア(GLD)、米国短期金利の代理指標として13週T-Bill利回り(^IRX)。期間:2004年11月18日〜2026年8月7日。取得日:2026年8月10日
- 為替(USDJPY):Yahoo Finance(yfinance経由)、取得日:2026年8月10日
- Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラスの基準価額:Yahoo!ファイナンス(投資信託、ファンドコード02311263)、設定日(2026年3月6日)〜2026年8月7日の全105営業日分、取得日:2026年8月10日
元記事と同様、ゴールドプラス(実質200%運用)の日次リターンは「S&P500日次リターン+金日次リターン-米国短期金利による調達コスト(日割り)」として自作シミュレーションしています。50/50運用(レバレッジなし)は「S&P500日次リターン×0.5+金日次リターン×0.5」です。いずれも運用会社が公表している実際のファンドの費用構造や先物ロールコストそのものを再現したものではなく、あくまで一次データに基づく参考値である点にご留意ください。
累積リターンとドローダウン:2004年からの22年弱で何倍になったか

2004年11月18日を1.0倍として、2026年8月7日時点までの累積リターンを比較すると、次のようになりました。
| 戦略 | 累積倍率 | 直近1年の騰落率 | 最大ドローダウン(全期間) |
|---|---|---|---|
| S&P500単体 | 6.6倍 | +22.3% | -56.8% |
| 50/50運用(レバレッジなし) | 9.1倍 | +26.4% | -33.1% |
| ゴールドプラス(株100%+金100%) | 38.3倍 | +49.4% | -57.7% |
約22年弱で、ゴールドプラスはS&P500単体の6倍近い累積倍率になっています。直近1年だけを見ても、金価格の上昇局面を追い風にゴールドプラスが+49.4%と大きくリードしており、この傾向は元記事執筆時点から変わっていません。
一方でドローダウン(最大下落率)を見ると、ゴールドプラスは-57.7%とS&P500単体(-56.8%)とほぼ同水準まで悪化しており、50/50運用の-33.1%と比べると、レバレッジによる値動きの荒さが際立ちます。「金を混ぜれば安全になる」わけではなく、あくまでレバレッジをかけた実質200%運用である以上、下落局面での振れ幅はS&P500単体と同等かそれ以上になり得る、という元記事の指摘は2026年時点でも変わらず当てはまるといえます。
シャープレシオはどう変わったか:金が26%下落した局面を経て
ここからが今回の核心です。元記事#45の狙いは「シャープレシオ(リスク調整後の運用効率)の最大化」でした。2026年、実際に金価格が大きく調整する局面を経て、この効率性はどう変化したのでしょうか。

3年間のローリング窓で年率換算したシャープレシオを比較すると、次のような推移が確認できました。
| 時点 | S&P500単体 | ゴールドプラス(100/100) | 50/50運用 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月29日(金が直近ピークをつけた日) | 0.99 | 1.96 | 1.96 |
| 2026年7月16日(金が直近ボトムをつけた日) | 0.95 | 1.29 | 1.29 |
| 2026年8月7日(直近) | 0.98 | 1.40 | 1.40 |
金が直近ピークをつけていた2026年1月末時点では、ゴールドプラスのシャープレシオは1.96とS&P500単体の約2倍の水準にありました。そこから金が26%下落した7月中旬にかけて、ゴールドプラスのシャープレシオは1.29まで低下しています。これは「金価格が下がればゴールドプラスの効率性も悪化する」という、ある意味当然の結果です。
注目したいのは、この下落局面でもゴールドプラスのシャープレシオ(1.29)はS&P500単体(0.95)を上回り続けていた点です。金価格が大きく調整する局面でも、無相関性による分散効果が完全に失われたわけではなかったことがうかがえます。その後、金価格が反発した8月上旬時点では1.40まで回復しています。
もう一つ、グラフの下段で示した相関係数の変化にも注目してください。金がピークをつけていた2026年1月末、S&P500と金の1年ローリング相関係数はほぼゼロ(0.02)でした。理想的な無相関の状態です。ところが金が下落した7月中旬には0.31まで上昇し、直近(8月7日)も0.33の高止まりが続いています。つまり2026年の値動きが荒い局面では、株式と金が「同じ方向に動きやすくなっていた」ということです。ゴールドプラスの前提である「無相関性」は、常に一定ではなく、市場環境によって変動する変数であることがこのデータから読み取れます。
なお図の上段で50/50運用とゴールドプラスのシャープレシオがほぼ完全に重なって見えるのは、表示の誤りではありません。実際に計算すると、両者のシャープレシオの差は小数点以下6桁のレベルでしかなく、全期間を通じてどちらが優位かはほぼ五分五分(ゴールドプラスが上回った日は約47%)でした。これは、レバレッジの調達コストがおおむね無リスク金利(短期金利)に連動している場合、レバレッジ倍率を変えてもシャープレシオそのものは理論上ほとんど変わらない、という金融工学の基本的な性質(レバレッジのシャープレシオ不変性)を裏付ける結果だと考えます。元記事#45では「50/50がわずかに上回る」という結果でしたが、今回改めて高精度で計算し直すと、実務上は「ほぼ差がない」という表現の方が正確といえそうです。レバレッジの意味は「効率を上げること」ではなく、「同じ効率のまま、リターンとリスクの絶対値を引き上げること」にある、と捉えるのがより正確な理解だと考えます。
直近2年の金価格:ピーク・ボトム・そして反発
上記のシャープレシオ変化の背景にある、金価格そのものの動きを確認しておきます。

円建て換算(ドル建て価格×USDJPY)で見ると、金価格は2026年1月29日に75,920円のピークをつけた後、2026年7月16日には59,150円まで下落しました。下落率にして-26.4%です。その後、8月に入って急速に反発し、8月7日時点では63,121円まで戻しています(ボトム比+6.7%)。
このように、金は「一方的に上がり続ける資産」ではなく、株式ほどではないにせよ相応の値動きをする資産である点は、ゴールドプラスを検討する上で押さえておきたいポイントです。
理論値と実物商品の比較:Tracersゴールドプラスは設計通りに動いたか
元記事#47で紹介した新商品「Tracers MSCIオール・カントリー・ゴールドプラス」(2026年3月6日設定)は、設定から約5ヶ月が経過し、実際の基準価額データが蓄積されました。今回はこのデータを使い、理論上のバックテストと実際の商品の値動きがどの程度一致していたかを検証します。


理論値は、Tracersが連動を目指すMSCI ACWI(全世界株式指数)の代理としてACWI連動ETFを、金の代理としてGLDを、それぞれドル建てで取得後にUSDJPYで円建て換算し、米国短期金利を追加ノーションの調達コストとして控除した自作シミュレーションです。設定日の基準価額10,000円を起点に、実物の基準価額と並べています。
2026年8月7日時点で、実物の基準価額は9,102円、理論値は8,941円と、乖離は+1.8%でした。期間中の平均乖離は+4.0%、最大でも+11.1%(2026年3月26日時点)にとどまっており、大きな方向感のズレは見られませんでした。実物の基準価額の方が理論値をやや上回って推移する傾向が続いていますが、この差は主に以下の要因によるものと考えられます。
- 理論値はMSCI ACWI指数そのものではなく代理のETFを使っている点(トラッキングの違い)
- 理論値は先物の実際のロールコストではなく、短期金利による単純な調達コストで代替している点
- 基準価額の算出タイミング(海外市場の終値を翌営業日の基準価額に反映する時差)の違い
- 信託報酬など、理論値には含めていない実際のコスト構造
「大まかな設計通りに動いているが、細部は簡易的な理論値では再現しきれない」というのが、率直な検証結果です。パンフレットに書かれた仕組みの説明だけでなく、実際に公表されている基準価額を継続的に確認する姿勢は、この種のレバレッジ型商品では特に重要だと考えます。
金利環境の変化とレバレッジコストへの影響
ゴールドプラスの調達コストの代理指標である米国短期金利(13週T-Bill利回り)は、2026年8月7日時点で3.71%でした。過去20年(2004年〜2026年)の平均が1.75%であることを踏まえると、現在の調達コストは歴史的な平均のおよそ2倍の水準にあります。
金利は2022年1月には0.09%とほぼゼロでしたが、その後の利上げ局面で2024年1月には5.22%まで上昇し、2026年に入って3.5%台まで緩やかに低下してきました。つまり「先物でレバレッジをかけることがほぼ無料だった」2020年代前半のゼロ金利期と比べると、2026年時点でのゴールドプラスの調達コストは相応に重くなっています。
この点は、過去のバックテストが好成績だったとしても、その恩恵の一部がゼロ金利という特殊な環境に支えられていた可能性を示唆します。今後、金利がさらに低下する局面では調達コストの負担が軽くなる一方、金利が高止まりする局面では、レバレッジコストが運用成果を継続的に圧迫する要因になり得る点は留意が必要だと考えます。
まとめ:読者の状況別に考える
- すでにゴールドプラス関連商品に投資している人:2026年に金が26%下落する局面でも、ゴールドプラスの運用効率(シャープレシオ)はS&P500単体を上回り続けていました。ただし株式と金の相関係数は上昇しており、「無相関だから安心」という前提を過信せず、定期的に値動きの構造を確認することをおすすめします
- Tracersなど実物商品への投資を検討している人:理論上のバックテストと実際の基準価額は大まかには一致していましたが、信託報酬やNAV算出タイミングなどにより一定の乖離が生じます。パンフレットの理論値だけでなく、実際に公表されている基準価額の推移を確認する習慣を持つことをおすすめします
- これから検討する人:現在の調達コスト(米国短期金利)は過去20年平均のおよそ2倍の水準にあります。ゼロ金利期のバックテスト結果をそのまま将来に当てはめず、金利環境も含めて判断材料に加えることをおすすめします
なお、シャープレシオや相関係数といった指標そのものの考え方については、以下の記事でも解説しています。


免責事項
本記事で紹介したデータは、Yahoo Finance(yfinance経由)およびYahoo!ファイナンスが公表する過去の実績値に基づく参考情報であり、将来の運用成果を保証するものではありません。本記事中の「理論値」は簡易的な自作シミュレーションであり、実際のファンドの費用構造・先物ロールコスト・NAV算出方法を正確に再現したものではありません。個別商品への投資判断は、本記事の内容のみに基づかず、目論見書や運用報告書などの一次資料をご自身でも確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。本記事は特定の金融商品・サービスを推奨するものではありません。


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