「使い切れずに死ぬ」のは、本当に安全なのか

資産の使い道を天秤にかけて考える高齢男性のイラスト(取り崩しシミュレーションのイメージ) 出口戦略

新NISAでコツコツ積み立てを続けていると、いつの間にか「資産を増やすこと」自体が目的になってしまうことがあります。私自身、資産形成シミュレーションの記事を何本も書いてきましたが、ふと立ち止まって考えると、積立や運用の「出口」——つまり資産をどう使い切るか——についてはほとんど検証してきませんでした。

多くの人は「お金が尽きたらどうしよう」という不安から、リタイア後も必要以上に節約し、結果として資産のピークを迎えたあと、使い切れないまま人生を終えることになります。これは「死ぬ時に一番金持ち」という状態です。

一見すると安全に見えるこの状態は、本当に合理的な選択なのでしょうか。今回はこの疑問を、Pythonでの取り崩しシミュレーションを使って数字で確かめてみます。

データの出典

年齢別の平均余命には、以下の一次資料を使用しています。

なお、これは「平均」であり、実際にはこれより長く生きる人が半数近くいる点に注意が必要です。今回のシミュレーションでは、この平均余命に一定の安全マージンを加え、65歳から95歳までの30年間を対象としました。

シミュレーションの前提条件

以下の前提でPythonによる取り崩しシミュレーションを行いました。数値はあくまで試算用の仮定であり、特定の運用成果や利回りを保証するものではありません。

項目設定値
リタイア時の資産額3,000万円
想定実質リターン年率2%(インフレ調整後)
シミュレーション期間65歳〜95歳(30年間)
物価変動・税金・社会保障給付簡略化のため考慮しない

比較する取り崩し戦略は次の2つです。

  • 戦略A(4%ルール型):初年度の資産の4%(120万円)を、以降も毎年据え置きで取り崩す。当ブログでも検証した、代表的な「取り崩しすぎない」ルール
  • 戦略B(使い切り型):95歳でちょうど資産が0円になるよう、年金現価計算で毎年の取り崩し額(約131.3万円)を設計する、いわば「死ぬ時に資産を残さない」設計
【検証】日本人のための「4%ルール」再定義:為替リスクとシーケンスリスクを加味した合理的出口戦略
米国発の「4%ルール」は日本でも通用するのか?為替リスクとシーケンスリスクを考慮したモンテカルロ・シミュレーションをもとに、日本居住者に最適な「定率取り崩し×現金クッション」のハイブリッド戦略を詳しく解説します。

シミュレーション結果

退職後30年間の資産残高シミュレーション。上段:65歳から95歳までの資産推移の折れ線グラフで、戦略A(4%ルール型、毎年120万円据え置き)は95歳時点で約469万円が残り、戦略B(使い切り型、毎年約131.3万円)は95歳でちょうど0円になる。下段:95歳時点の資産残高(戦略A 469万円/戦略B 0万円)と生涯の取り崩し総額(戦略A 3,600万円/戦略B 約3,940万円)を比較した棒グラフ。

結果は次のとおりです。

比較項目戦略A:4%ルール戦略B:使い切り型
年間取り崩し額120万円(据え置き)約131.3万円
95歳時点の資産残高約469万円0円
生涯の取り崩し総額(30年間)3,600万円約3,940万円

差額を見ると、戦略Bは生涯で約340万円多く使い切れる計算になります。「安全のため」と思って据え置いていた4%ルールが、実は約469万円分の使いそびれを生んでいた、と言い換えることもできそうです。

使い切り型の弱点:長生きした場合のリスク

一方で、戦略Bには明確な弱点があります。同じ年131.3万円の取り崩しを続けたまま96歳を迎えると、資産はマイナスになります。つまり戦略Bは「計画した年齢まで生きる」ことが前提の設計であり、想定より長生きした場合には資産が先に尽きてしまう「長生きリスク(シーケンスリスクとは別の、長寿リスク)」を抱えることになります。この点は、当ブログので扱った「出口の脆弱性」とも重なるテーマです。

「使いすぎない」と「使い切れない」の間にある選択肢

ここまでの結果を見ると、「4%ルールは安全すぎて、使いそびれが生まれる」「使い切り型は合理的だが、長生きリスクに弱い」という、単純な二択には見えないことが分かります。実際には、次のような中間的な工夫を組み合わせている人が多いのではないかと考えます。

  • 平均余命よりも長めの年齢(95歳や100歳)を目標に据え、多少の使い残しを許容する
  • 資産の一部を「使い切り型」で計画し、残りを「据え置き型」の予備として確保する
  • 公的年金や個人年金保険など、長生きしても途切れない収入源と組み合わせる

どの選択が正解かは、資産額・家族構成・健康状態によって大きく変わるため、本記事では「絶対にこうすべき」という結論は出しません。あくまで、据え置き型の取り崩しには構造的に「使いそびれ」が発生しうる、という事実を数字で示すことが本記事の目的です。

まとめ:読者の状況別に考える

  • これから資産形成を始める人:出口戦略は先の話に思えますが、積立の目標額を考える際に「使い切る前提」か「据え置く前提」かで必要な金額が変わってくることは、頭の片隅に置いておくとよいと考えます
  • リタイアが近づいてきた人:4%ルールのような保守的な取り崩し方は安心材料になりますが、その分「使いそびれ」が生まれる可能性がある点を理解した上で選ぶことをおすすめします
  • すでに取り崩しを始めている人:ご自身の取り崩し率が、平均余命に対して余裕を持った設計になっているか、一度シミュレーションしてみる価値があると考えます

免責事項

本記事のシミュレーションは、特定の前提条件(リターン率・初期資産額・生活費水準など)に基づく試算であり、将来の運用成果や資産の持続を保証するものではありません。実際の資産設計にあたっては、税制・社会保障制度・ご自身の健康状態やライフプランを踏まえ、必要に応じて専門家にご相談ください。本記事は特定の金融商品・サービスを推奨するものではありません。

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