「投資している人は増えているのに、なぜ老後の不安を感じている人はむしろ多いままなのか」
2026年7月、そんな疑問を裏付けるような調査結果が発表されました。ファイナンスメディア株式会社が2026年3月〜4月に実施した独自調査によると、日本人の投資参加率は74.9%まで拡大した一方で、老後の備えが「不十分」と感じている人は79.8%にのぼるという結果です。
投資を始めている人の方が多いのに、不安を感じている人はさらに多い。この一見矛盾したような数字を、一次資料に立ち返って読み解いてみます。
まず、この調査の性質を確認しておく
数字を見る前に、出典を確認しておくのが このブログの基本姿勢です。
今回の調査は、ファイナンスメディア株式会社が実施した「日本人の資産運用実態調査2026」(有効回答411名、インターネットアンケート)が元になっています。同社は2025年8月設立と、比較的新しい会社です。411名という回答数、インターネットアンケートという調査手法を踏まえると、日本の成人全体を代表する数値として扱うには、一定の留保が必要だと考えます。
そこで、公的な統計データと突き合わせて、方向性が一致しているかを確認してみます。
公的統計との突き合わせ:方向性は一致している
金融経済教育推進機構(J-FLEC)が毎年公表している「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」を確認すると、次のような結果が出ています。
- 老後の生活を「心配である」と回答した割合は、60代・70代であっても約7割にのぼる
- 金融資産の保有目的として「老後の生活資金」を挙げる割合は、20歳代においても2016年の24.4%から2025年には40.3%まで上昇している
サンプルサイズも調査主体も異なるため単純比較はできませんが、「投資をしている・していないに関わらず、老後への不安は年代を問わず根強い」という方向性については、公的統計とも整合していると考えます。今回の411名調査の「79.8%」という数字そのものの精度は割り引いて見る必要があるとしても、背景にある傾向自体は、実感として的外れではなさそうです。
なぜ「参加率」と「安心感」はリンクしないのか
ここからが本題です。なぜ投資参加率が上がっているのに、不安を感じている人の割合が下がらないのでしょうか。
理由は、この2つの指標がそもそも別の軸を測っているからだと考えます。
- 投資参加率:「現在、何らかの形で投資をしているか」という、いわば二択の指標。1万円分の投資信託を保有していても、月10万円を積み立てていても、同じ「投資している」に分類されます
- 老後の安心感:将来必要な金額に対して、今の積立ペースでどこまで到達できそうか、という「進捗」の感覚
つまり、「投資をしているかどうか」は入口に立ったかどうかの話であり、「安心できるかどうか」は、その先の積立額・運用期間・目標設定によって決まる話です。この2つを混同してしまうと、「投資さえ始めれば老後は安心」という誤解が生まれやすくなります。
今回の調査でも、投資を始めたきっかけの1位は「老後の不安」(53.2%)でした。不安をきっかけに投資を始めた人が、その後も同じ不安を抱え続けているというのは、考えてみれば自然なことです。「投資をしていること」自体は、不安を解消する条件のひとつに過ぎず、十分条件ではないのだと思います。
いくら・何年積み立てるかで、結果はどれだけ変わるのか
「参加しているかどうか」ではなく「いくら・何年積み立てるか」が結果を左右する、という点を数字で確認してみます。
毎月一定額を積み立て、年率5%(複利)で20年間運用したと仮定した場合の到達額を試算しました。

| 月々の積立額 | 元本(20年間の積立総額) | 運用益(想定) | 20年後の到達額 |
|---|---|---|---|
| 1万円 | 240万円 | 約171万円 | 約411万円 |
| 3万円 | 720万円 | 約513万円 | 約1,233万円 |
| 5万円 | 1,200万円 | 約855万円 | 約2,055万円 |
(試算条件:毎月積立、年率5%複利、積立期間20年。将来のリターンを保証するものではなく、特定の投資対象を推奨する意図もない、あくまで概算です)
同じ「投資している人」というカテゴリに入っていても、月1万円と月5万円では、20年後の到達額に5倍の差が生まれます。しかも、この差は元本の差(5倍)だけでなく、運用期間中の複利効果によってさらに広がっています。
「投資しているかどうか」というアンケートの二択では、この差はまったく見えません。老後の安心感を左右しているのは、参加の有無ではなく、この積立額・期間の部分だと考えます。
初心者の壁:「何を買えばいいかわからない」57.1%
同じ調査群の「投資初心者の実態調査2026」(有効回答310名)では、投資を始めた際に感じた壁として「何を買えばいいかわからない」という回答が57.1%で最多でした。投資学習の方法としてはYouTubeが56.8%でトップという結果も出ています。
情報量が増えている一方で、「自分に合った商品をどう選ぶか」という判断軸が育ちにくい状況がうかがえます。この点については、以前インデックスファンドの選び方について書いた記事があるので、あわせて参考にしてください。

データ出典
本記事で使用したデータの出典は以下の通りです。
- ファイナンスメディア株式会社「【2026年上半期まとめ】日本人897名への3調査で判明した『投資の現在地』」(2026年7月8日発表、PR TIMES配信)
- 資産運用実態調査2026(有効回答411名、2026年3月〜4月実施)
- 投資初心者の実態調査2026(有効回答310名、同時期実施)
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」(2025年12月18日公表)
まとめ:読者の状況別に整理する
① これから投資を始めようとしている人 「投資を始めること」自体は大切な一歩ですが、それだけで老後の不安が解消されるわけではありません。始めた後、いくら・何年積み立てるかという計画まで含めて考えることをおすすめします。
② すでに投資しているが、不安が消えない人 不安が消えないこと自体は、決しておかしなことではないと考えます。今回の試算のように、自分の積立額・期間で20年後・30年後にどこまで到達できそうかを一度数字で確認してみると、漠然とした不安が具体的な計画に変わるきっかけになるかもしれません。
③ 何を買えばいいかわからず、始められずにいる人 57.1%が同じ壁にぶつかっているというデータからも分かる通り、これは珍しい悩みではありません。インデックスファンドの基本的な仕組みから確認したい方は、上記のリンク先記事も参考にしてみてください。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。記事内の調査データは民間企業による独自調査を含み、母集団の代表性には留意が必要です。シミュレーションで用いた年率5%という想定は将来のリターンを保証するものではなく、あくまで概算です。投資の意思決定は、必ずご自身の判断と責任において行ってください。


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