「去年1位のファンドを買えばいい」は本当か?——過去リターンランキングの落とし穴を検証する

リターンランキング表を見ながら考え込む男の子のイラスト 投資の基礎知識

前回の記事では、食べログのスコアを読み解く目線と、投資信託の数字を読み解く目線が、実は同じ構造を持っているという話をしました。

食べログの評価は疑えるのに、なぜ投資の数字は信じてしまうのか
食べログのスコアは疑えるのに、ファンドの過去リターンは信じてしまう。この非対称さの正体と、「数字の作られ方」を問う投資思考を3つの視点から解説します。

今回はそのなかでも、とくに多くの人が陥りやすい「過去リターンランキング」の罠を深掘りします。証券会社のサイトを開けば、過去1年・3年・5年のリターン上位ファンドがずらりと並んでいます。「上位のファンドを選んでおけば間違いないだろう」——この直感は、データで検証するとどうなるでしょうか。


この記事で使用したデータについて

  • DALBAR「QAIB(Quantitative Analysis of Investor Behavior)2024年版」
  • S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス「SPIVA Japan Year-End 2024」
  • 野村アセットマネジメント公開情報・日本経済新聞(2024年末時点)
  • SBI証券 投資情報メディア(2024年9月末基準)
  • モーニングスター・各社公開データ(シミュレーション近似値の算出)

ランキング上位を追いかける、その気持ちはよくわかる

少し想像してみてください。旅行先でどのレストランに入るか迷ったとします。ネットで調べると、直近1年の口コミ評価トップ10の一覧が出てきた。あなたはどうしますか?おそらく、上位のお店から候補を絞るはずです。「最近おいしかった」という評価が集まっているお店を選ぶのは、理にかなっています。

投資信託も、同じ感覚で選んでしまいがちです。「過去1年で74%上がったファンド」「5年で469%を達成したファンド」——こういう数字を見ると、「このファンドは実力がある」と感じてしまう。

食べログの評価を疑いながら投資信託のリターンは信じてしまうという、同じ数字に対する態度の非対称性を対比した比較カード図

しかし、ここに大きな落とし穴があります。レストランの「最近おいしかった」評価は、少なくともシェフが変わっていなければ、来週も再現される可能性がある。しかし投資の「過去のリターン」は、それが生まれた相場環境ごと過去のものです。同じ環境が次の1年に再現される保証は、どこにもありません。


「去年1位」は今年も1位か?——データで確認する

2024年末時点での1年リターンランキング首位は、野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)でした。1年リターン74.1%、3年で154.5%、5年で469.1%という数字を記録しています。

野村世界半導体株投資の1年・3年・5年の期間別リターン(74.1%・154.5%・469.1%)を示す棒グラフ(2024年末時点)

「これだけ実績が続いているなら、長期でも信頼できるファンドじゃないか」——そう思う気持ちはよくわかります。しかし一度立ち止まって、この数字が「いつ」「どんな環境で」作られたのかを考えてみる必要があります。

このファンドの高騰を支えた最大の要因は、エヌビディアを筆頭とするAI関連半導体株の爆発的な上昇です。ファンド内でエヌビディアが組み入れ比率の約3割を占めており、2020年以降のAIブームという特定の相場環境がこの数字を作り出した大きな背景にあります。

では問いを変えましょう。「この環境がこれからも続くと確信できますか?」

半導体株の特性として、景気拡大局面では世界株を大きく上回る一方、景況感が悪化した年には世界株よりも大きく下落する傾向があります。上がるときの振れ幅が大きい分、下がるときも同様です。「過去5年で年率42%」という数字は、今後の5年を約束するものではなく、過去5年がいかに半導体株に追い風の特殊な環境だったかを示している数字でもあります。


SBI証券のランキング上位を、後から見るとどうなるか

もう少し具体的なデータで考えてみましょう。2024年9月末基準のSBI証券NISAファンドにおける6ヶ月リターンランキング上位には、こんなファンドが並んでいました。

順位ファンド名上昇の主因長期ファンドレーティング
1位ブラックロック・ゴールドファンド金価格の上昇★1(最低位)
2位東京海上・グローバルヘルスケアREIT(ヘッジあり)金利低下+円高ヘッジ効果★1(最低位)
3位SBI・UTIインドファンドインド株式市場の好調

出所:SBI証券 投資情報メディア(2024年9月末基準)をもとに作成

これらに共通することがあります。「6ヶ月という期間に、そのファンドに追い風となる環境が重なった」という事実です。金価格が上がったから金鉱株ファンドが1位になった。金利が下がったからREITが上がった。インド株が好調だったからインドファンドが上位に入った。それぞれの数字は「その6ヶ月に起きたこと」を正確に反映しています。

しかしそれは、「その環境が次の6ヶ月も続く」ということとは別の話です。実際、この期間に1位だったブラックロック・ゴールド・ファンドは、長期のファンドレーティングが最低位の1ツ星と評価されていました。標準偏差(値動きのブレ幅)が大きく、長期での運用効率が低いという判断からです。短期の順位が高い=長期で優れたファンドではない。この乖離が、ランキング選びの落とし穴です。


シミュレーション:「毎年1位を買い替えた場合」の20年後

ここで、実際に数字で検証してみます。

2005年から2024年の20年間、次の2つの戦略を比較します。

戦略A(毎年乗り換え):毎年1月に「前年の国内公募株式ファンドのリターン1位」を購入し、翌年も同じ操作を繰り返す。

戦略B(S&P500買い放置):S&P500インデックスファンドを2005年に購入し、20年間一切売らない。

初期投資はどちらも100万円。税金・売買コストは考慮しない(実際にはかかるため、差はさらに拡大します)。

2005年から2024年の20年間、前年リターン1位のファンドを毎年買い替えた場合とS&P500インデックスを保有し続けた場合の資産推移と年次リターンを比較したシミュレーショングラフ

結果はこうなりました。

戦略20年後の資産額
S&P500インデックス(買い放置)718万円
前年1位ファンドを毎年買い替え579万円

※ シミュレーションは概算値。前年1位ファンドのリターンはモーニングスター・各社公開データをもとに近似。税金・売買コストは未考慮。

S&P500の718万円に対して、毎年乗り換えは579万円。差は139万円です。

注目すべきはグラフ下段の年次リターン比較です。乗り換え戦略は好調な年には大きく上振れますが、2008年・2022年のような局面では急落幅が際立って大きくなっています。これが20年間の複利効果を大きく削る原因です。また、このシミュレーションには売買のたびに発生する税金・コストが含まれていません。実際にはこの差がさらに拡大することになります。


「プロでも勝てない」——SPIVAが示すデータ

「リターンが高いファンドを選ぶ」という行動の前提には、「うまいファンドマネージャーが市場平均を超えるリターンを出し続けられる」という仮定があります。しかしこれは、データ的に支持されているのでしょうか。

S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが公表している「SPIVA日本スコアカード」は、この問いに対して厳しい答えを示しています。

SPIVA日本スコアカード2024年末:日本大型株・グローバル株式・新興国株式の各ファンドカテゴリーで、アクティブファンドが1年・15年でインデックスに負ける割合を示す横棒グラフ

2024年末時点のデータによると、グローバル株式ファンドの88%が1年間でベンチマーク(指数)を下回りました。さらに15年という長期で見ると、この割合は98%に達します。つまり「プロのファンドマネージャーが運用するアクティブファンドのうち、15年間インデックスに勝ち続けられたものはわずか2%」ということです。

「でも2%の勝者を事前に見つければいいのでは?」という反論はあるかもしれません。しかし問題は、今年のトップファンドが来年もトップである保証がまったくないことです。これが、先ほどのシミュレーションで「毎年乗り換え」が長期で報われなかった理由の本質でもあります。


投資家が実際に受け取るリターンは、さらに少ない

ここまでは「ファンドの成績」の話でした。しかし実際に問題なのは、「投資家が手元で受け取るリターン」です。

DALBARが毎年発表している「QAIB(投資家行動の定量分析)」レポートには、この差が明確に記録されています。2023年の数字では、S&P500が年間26.29%のリターンを上げた一方、平均的な株式ファンド投資家の実際のリターンは20.79%でした。差し引き5.5ポイントの乖離です。

S&P500の年間リターン26.29%と平均投資家リターン20.79%の差5.5ポイントを示す棒グラフと、差が生まれる行動バイアスのサイクルを解説した図

なぜこんなに差が生まれるのか。主な原因は行動バイアスです。投資家はランキング上位のファンドが話題になってから資金を入れる傾向があります。上がり切ったところで入り、下がり始めると「やっぱり違った」と撤退する。このサイクルが、ファンドの公式リターンと投資家の実感リターンを大きく乖離させます。

これはまさに「行列を見てから並んだ人が最も高い食事代を払う」という、前回の記事で紹介した構造と同じです。


ランキングは「相場の歴史書」として読む

「過去リターンを見るな」という話ではありません。全体の文脈を理解した上で参考にする分には意味があります。問題は、それを「将来の保証」として使うことです。

長期投資において参考にすべき指標を整理すると、次のようになります。コストの低さ(実質コスト)は毎年必ず差し引かれる確実な費用です。リターンは不確実でも、コストは確実に発生します。長期になればなるほど、このコストの差は複利で拡大します。インデックスファンドを選ぶ場合には、「どれだけ指数通りに動いているか」を示すトラッキングエラーが本質的な評価指標になります。そして特定のテーマやセクターに集中したファンドが高いリターンを出している期間は、その「賭け」が当たっている期間に過ぎません。市場全体に広く分散したインデックスファンドは、特定のテーマが当たり続けることに依存しない設計になっています。

そしてランキングとの正しい付き合い方は、「選ぶための根拠」として使うのではなく、「過去の相場を振り返るための読み物」として使うことだと考えます。「去年はなぜ半導体ファンドが上位に来たのか」「インドファンドが上位に来た年の背景は何だったのか」——こういった視点でランキングを読むと、市場の動き方のパターンや、特定のテーマがいかに短期間で入れ替わるかが見えてきます。


まとめ:読者の状況別

あなたの状況意識したいこと
ランキング上位のファンドを検討中上昇の背景(相場環境・テーマ)を確認してから判断する
人気の半導体・テーマ型ファンドが気になる集中投資の分、下落時の振れ幅も大きいことを認識する
毎年ランキングを見てファンドを乗り換えているコスト・税負担・行動バイアスが20年で139万円の差になりうる
長期積立を続けているランキングは「相場の歴史書」。今の順位より設計思想と継続を重視する

免責事項

本記事は情報提供を目的としており、特定のファンドや金融商品への投資を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、元本が保証されるものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行っていただくようお願いします。記事中のデータは執筆時点の情報に基づいており、最新の数値とは異なる場合があります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました