「長期投資は必ず報われる」は本当か。150年のデータで検証した

S&P500の150年チャートと保有期間別勝率グラフを見つめるキャラクター 投資戦略

はじめに:その「必ず」、根拠はありますか?

新NISAの普及とともに、こんな言葉をよく目にするようになりました。

「長期投資すれば、必ず報われる」

投資本にも、SNSにも、証券会社のパンフレットにも書いてある。では、この「必ず」に、データ的な根拠はあるのでしょうか。

エンジニアとして、この問いを素直に検証してみました。使ったのは言葉ではなく、150年分の数字です。


この記事で使用したデータについて

  • S&P500(実質):Robert Shiller教授が公開するデータセット(1871年〜2023年)+Yahoo Finance(2023年〜2026年)をCPI(消費者物価指数)で調整した実質リターン系列
  • 日経平均株価:Yahoo Finance(yfinance経由、1985年〜2026年)名目値
  • CPI(消費者物価指数):Robert Shiller教授データセットより

※ S&P500の実質リターンは名目株価をCPI比で割り引いたものです。「物価上昇分を差し引いた、購買力ベースのリターン」と理解してください。


グラフで見る150年

まず全体像を見てください。

S&P500・150年の実質リターンと保有期間別勝率グラフ

※ グラフ内の赤いハイライト部分が「長期停滞期」です。詳しくは後述します。


「必ず報われる」の根拠を確認する

「長期投資は必ず報われる」という主張の根拠として、よく使われるのが「保有期間を延ばすほど、プラスで終わる確率が上がる」というデータです。

実際に計算してみましょう。1871年から2026年までの全月を起点に「この月から○年間保有したら、プラスだったか?」を全パターン集計した結果が下のグラフです(S&P500・実質ベース)。

保有期間S&P500(実質)日経225(名目・1985〜)
1年61%59%
5年64%53%
10年70%50%
15年74%49%
20年74%49%
30年81%65%

S&P500は確かに、保有期間が長いほど勝率が上がっています。30年保有で81%。これが「長期投資は報われる」の根拠です。

ただし、ここで立ち止まって考えてほしいことがあります。


データが示す「不都合な事実」

事実①:20年保有でも4回に1回は実質マイナス

S&P500を20年間保有しても、実質ベースでは約26%の確率でマイナスになっています。4回に1回です。

「20年持てばほぼ大丈夫」という言説は半分正しく、半分は過信です。

事実②:実際に「20年近く報われなかった時代」が存在する

グラフのハイライト部分を見てください。歴史上、S&P500でも長期間にわたって実質リターンがほぼゼロ、あるいはマイナスだった時代があります。

大停滞期(1906〜1921年) 第一次世界大戦前後の約15年間。インフレが進むなか株価が低迷し、実質リターンは長期にわたり回復しませんでした。

大恐慌+第二次世界大戦(1929〜1954年) 1929年9月の高値を実質ベースで回復するまで、約25年かかっています。1929年に投資を始めた人が「元本回復」を見たのは、1954年のことでした。

1930〜40年代の戦場をミニチュアジオラマ風に描いたイラスト。丸みのあるトイ調の兵士や戦車、崩れかけた株価ボード、地面に散らばった金貨が描かれ、暗い空の彼方にわずかな光が差し込んでいる

スタグフレーション期(1969〜1982年) 石油危機に端を発したインフレが株価上昇を打ち消し、約13年間、実質リターンはほぼマイナス圏でした。名目では上がっているように見えても、物価上昇に追いつかなかった時代です。

ITバブル崩壊+リーマンショック(2000〜2013年) 2000年3月の高値を実質ベースで回復するまで、約13年かかっています。「失われた10年」は日本だけの話ではありませんでした。

事実③:日経平均は20年保有でも勝率が50%を切る

日経平均は1985年からのデータしかありませんが、それでも衝撃的な数字が出ています。10年・15年・20年保有のいずれも、勝率が約49〜50%。コインを投げるのと変わらない確率です。

1989年末の高値(38,915円)は、2024年にようやく更新されました。あの水準から投資を始めた人は、35年近く待ったことになります。

これが「特定の国の株式インデックスに集中投資するリスク」の実態です。


「報われる」の定義問題

もうひとつ、見落とされがちな論点があります。

「報われた」を何で測るか、によって結論が変わるという問題です。

名目リターンで測れば、S&P500は歴史上のほぼすべての長期保有でプラスです。しかし物価上昇(インフレ)を差し引いた実質リターンで測ると、「報われなかった時代」が浮かび上がります。

たとえば1970年代のスタグフレーション期。名目ではゆるやかに上昇していても、インフレ率がそれを上回っていたため、実質的な購買力は目減りし続けました。「数字の上では増えているが、実生活では豊かになっていない」という状態です。

投資の目的が「将来の購買力を守ること」であれば、実質リターンで考えることが本質に近い、とエンジニアとしては考えます。


では「長期投資は報われる」は嘘なのか?

そうは言っていません。整理しましょう。

この命題が成立するための条件は、少なくとも三つあります。

条件①:「米国株」であること S&P500の150年データには、「米国という国家が世界の覇権を握り続けた」という歴史的事実が前提として含まれています。この先100年も同じとは限りません。日経平均のデータが示すように、「インデックスに長期投資すれば必ず報われる」は国を選びます。

条件②:「名目ベース」ではなく「実質ベース」で考えること 名目リターンで「報われた」と言っても、インフレに負けていれば購買力は下がっています。実質リターンで評価すると、「報われなかった期間」が歴史上複数存在します。

条件③:自分の投資期間が本当に20〜30年あること 「20年持てば大丈夫」という言説は、20年後に必ずプラスになることを保証しません。勝率74〜81%という話です。また、リタイア直後に大暴落が来た場合、「あと20年待てる」という状況にはないかもしれません。これは「収益順序リスク(SORR)」として別記事で詳しく扱っています。

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資産寿命を左右するのは平均リターンではなく「リターンの順序」です。リタイア直後の下落が致命傷になる「収益順序リスク(SORR)」の正体と、現金バッファを用いた合理的な回避策をエンジニア視点で解説。

エンジニアとしての結論

「長期投資は必ず報われる」という命題を、データで正直に評価するとこうなります。

◎ 言えること:米国株インデックス(S&P500)を実質ベースで20〜30年保有すると、歴史的には高確率(74〜81%)でプラスになっている。

△ 言いすぎなこと:「必ず」報われる。歴史上、20年保有でも実質マイナスで終わった時代は存在する。

× 前提が抜けていること:「インデックス投資なら」という但し書きなしに語られること。日経平均のように、20年保有の勝率が50%を切る市場も存在する。

「必ず報われる」という言葉を信じて、根拠なく楽観できるほど、現実は単純ではありませんでした。ただし同時に、「だから投資は危険だ」という結論も、このデータからは導けません。

条件と前提を正確に理解したうえで、自分の投資期間・リスク許容度・分散方針を設計する。それが、データを正直に読んだあとに取るべき行動だとエンジニアとして考えます。


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※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資商品への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

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