「NISAスイッチング機能」は実現したのか?金融庁要望と税制改正大綱を一次資料で突き合わせる

金融庁職員が「こどもNISA」「指数拡大」「スイッチング」と書かれた3枚のカードを持ち、こどもNISAと指数拡大には丸印が付いているが、スイッチングのカードだけを手に持って悩んでいるイメージ画像 NISA

「NISAにスイッチング機能」は本当に決まったのか

「NISAにスイッチング機能が追加される」「投資商品の入れ替えがしやすくなる」——2026年に入ってから、こうした話題をニュースやSNSで見かけた方もいるのではないでしょうか。iDeCoのように、保有商品を自由に入れ替えられるようになるのかと期待した方もいると思います。

しかし、この話には一つ重要な確認が抜けていました。「制度改正が要望された」という段階の情報と、「制度改正が決定した」という段階の情報は、まったく別物です。この記事では、金融庁が実際に要望した内容と、2025年12月に決定・公表された「令和8年度税制改正大綱」の本文を一次資料同士で突き合わせ、スイッチング機能が実際にはどうなったのかを確認します。

データの出典

本記事の内容は、以下の一次資料を直接確認したうえで作成しています。

  • 出典①(要望段階):金融庁「令和8(2026)年度税制改正要望について」(2025年8月29日公表)/「令和8年度税制改正要望事項(新設・拡充・延長)」(金融庁総合政策局総合政策課)
  • 出典②(決定段階):自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日公表、全150ページ)
  • 補強資料:EY税理士法人「令和8年度税制改正大綱~金融・不動産関連税制」(2026年1月28日発行)
  • 取得日:2026年8月29日
  • URL:https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20250829/01.pdf(金融庁要望・概要)/https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/request/fsa/08y_fsa_k_14.pdf(金融庁要望・詳細)/https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/212129_1.pdf(税制改正大綱本文)

金融庁が要望していた内容を確認する

まず、話の発端になった金融庁の要望を確認します。新NISAには「年間投資枠」(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=360万円)と、生涯を通じた上限である「非課税保有限度額」(1,800万円)という2種類の枠があります。現行のルールでは、NISA口座内で商品を売却しても、その分の非課税保有限度額が再び使えるようになるのは「売却した年の翌年」です。

金融庁は2025年8月29日公表の要望書で、この復活のタイミングを早める措置を求めていました。原文は以下の通りです。

③ 投資商品を入替しやすくするため、非課税保有限度額の当年中の復活に関する措置を講ずること。

これが「スイッチング機能」と呼ばれるようになった要望の実体です。「投資商品の入替をしやすくする」という目的は書かれているものの、具体的にどう変わるのか、年間投資枠との関係はどうなるのか、施行時期はいつかといった詳細は、この要望書のどこにも記載されていません。あくまで「こういう措置を求める」という一文だけの要望でした。

実際に決定された大綱の中身を確認する

次に、この要望が実際にどう扱われたのかを確認します。2025年12月19日、自由民主党・日本維新の会は「令和8年度税制改正大綱」を決定・公表しました。この大綱こそが、その年度の税制改正で実際に何が実施されるかを定める文書です。

大綱本文の「三 金融・証券税制」の章を確認すると、NISAに関する改正として記載されているのは、以下の3点のみでした。

項目内容
つみたて投資枠の対象年齢拡充0〜17歳向けの区分を新設(いわゆる「こどもNISA」)。年間投資枠60万円、非課税保有限度額600万円
つみたて投資枠の対象指数拡大読売株価指数・JPXプライム150指数を追加。運用資産の50%を超える債券を含む投資信託も対象に追加
所在地確認手続きの簡素化口座開設から10年経過時等に必要だった郵送等による住所確認の手続きを簡素化

大綱全150ページを確認しましたが、「非課税保有限度額の当年中の復活」「投資商品の入替」に相当する記載は、本文のどこにも見当たりませんでした。金融庁が要望していたはずのスイッチング機能は、実際の大綱には盛り込まれなかったということになります。

これは見落としではなく、複数の資料で裏付けが取れています。金融・不動産関連税制を専門に扱うEY税理士法人が2026年1月28日に発行した大綱解説ニュースレターでも、NISA関連の改正点として挙げられているのは上記3点のみで、スイッチング機能への言及はありません。

比較表:要望されたこと/実際に決まったこと

金融庁の要望書に記載されていた3項目と、実際に大綱に盛り込まれたかどうかを一覧にすると、以下のようになります。

金融庁の要望項目(2025年8月)大綱への反映(2025年12月)
①こども支援の一環としての、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し○ 反映(こどもNISAとして実現)
②様々な資産運用ニーズに応えるための、対象商品の拡充等○ 反映(対象指数拡大として実現)
③投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活× 反映なし(大綱に記載なし)

3つの要望項目のうち、①②は実現した一方、③のスイッチング機能だけが実現しなかった、という構図です。なお、税制改正大綱は「決定した内容」を記載する文書であり、「なぜある項目が見送られたか」という理由までは記載されません。そのため、③がなぜ反映されなかったのかを一次資料から特定することはできません。この記事でも、理由の推測は行わないこととします。

「要望」と「決定」の違いをどう読むか

税制改正は、おおむね次のような流れで決まります。各省庁が翌年度の税制改正について要望を取りまとめ(毎年8月頃)、それを受けて与党の税制調査会が年末にかけて審議を行い、その結果を「税制改正大綱」として決定・公表する(例年12月)、というプロセスです。要望はあくまで「各省庁が求めた内容」であり、実際に何が実現するかは、その後の与党内での審議を経て初めて確定します。

「〇〇省が××を要望」という報道は、その時点ではまだ実現するかどうか分からない情報です。特にSNSなどでは、要望段階の情報がそのまま「決まった」かのように広まってしまうことがあります。今回のスイッチング機能も、まさにそうした情報の一つだったと言えます。制度変更に関するニュースを目にしたときは、それが「要望」の段階なのか、「大綱で決定」した段階なのか、あるいは「法案が成立」した段階なのかを区別して確認することが大切だと考えます。

まとめ:読者の状況別に考える

  • スイッチング機能を前提に売却・再投資のタイミングを計画していた人:現行ルール(非課税保有限度額の復活は売却の翌年)を前提に、資産の入れ替え計画を見直す必要があります
  • 税制ニュースを日頃からチェックしている人:「要望された」という報道と「決定した」という報道を区別して確認する視点を持つと、早合点を避けられます
  • 令和9年度以降の税制改正の動向を注視したい人:今回見送られた要望が、翌年度以降に再度要望・採用される可能性はゼロではありません。今後の要望書・大綱もあわせて確認していく価値があります

免責事項

本記事は2025年12月19日時点で公表されている税制改正大綱の内容に基づいています。今後の国会審議や法案化の過程で、税制の内容が新たに変更・確定する可能性があります。また、令和9年度以降の税制改正において、本記事で取り上げた要望項目が改めて要望・採用される可能性も排除されません。本記事は特定の金融商品・サービスを推奨するものではありません。

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