2026年7月3日、債券市場で新発10年国債の利回りが一時2.810%まで上昇し、1997年5月以来、約29年ぶりの高水準となりました。
このニュースを見て、「あれ、日銀はもう利上げしたはずでは?」と感じた方もいるのではないでしょうか。実はこの「長期金利の上昇」、日銀が利上げをしたことの直接的な結果ではありません。むしろ逆で、「日銀の利上げが遅れるかもしれない」という懸念が主な要因になっています。
このブログでは以前、日銀の政策金利(0.75%→1.00%)についての基礎解説記事を書きました。

今回は、その政策金利とは別の指標である「長期金利」が何によって動いているのかを、一次資料で確認していきます。あわせて、国内債券ファンドや個人向け国債への影響も、簡単な試算を交えて整理します。
政策金利と長期金利は「別のもの」
まず整理しておきたいのが、「政策金利」と「長期金利」は決め方がまったく違う、という点です。
- 政策金利:日銀が金融政策決定会合で直接決める短期の金利。現在は1.00%(2026年6月の利上げ後)
- 長期金利:市場で日々取引されている新発10年国債の利回り。買いたい人・売りたい人の需給で毎日動く
政策金利は日銀という「単一の主体」が決めますが、長期金利は無数の市場参加者が「将来の政策金利の見通し」や「財政の健全性」「インフレ率」などを織り込みながら取引した結果として決まります。つまり、長期金利は「市場が下した将来予想の集合体」といえます。
だからこそ、「日銀が利上げした」=「長期金利も同じ理由で上がる」とは限りません。今回のケースはまさにその典型例だと考えます。
一次資料で確認:今回の上昇は何が原因か
今回の長期金利上昇について、報道された要因を整理すると、大きく3つに分けられます(2026年7月3日時点の各社報道より)。
① 財政拡張への懸念
政府が策定を進める経済財政運営の基本方針「骨太の方針」の原案で、2040年度までに官民で370兆円を超える投資方針や、消費税減税の方針が示されました。財政支出が拡大すれば、その財源を賄うために国債の発行が増えることになります。国債の供給が増えると見込まれれば、価格は下がりやすく(=利回りは上がりやすく)なります。
② 「日銀への利上げ牽制」が逆効果に
政権は「骨太の方針」の原案で、「強い経済」の実現には日銀の適切な金融政策運営が「非常に重要」と明記しました。市場はこれを、日銀に対する利上げへの牽制と受け止めました。
ここが今回のポイントです。「利上げを牽制する」というメッセージは、一見すると金利を抑える方向に働きそうですが、実際には逆の反応を招きました。市場は「日銀のインフレ対応が後手に回るのではないか」という、いわゆるビハインド・ザ・カーブ(利上げのタイミングが遅れて、後から急激な対応を迫られる状態)への懸念を強め、国債を売る動きにつながったのです。
三井住友トラスト・アセットマネジメントのストラテジストは、政権が拡張的な財政政策の方針を変えなければ、長期金利は秋には3%に達する可能性もあると指摘しています(時事通信、2026年7月3日)。
③ 需給要因:10年債入札の低調
7月2日に実施された10年物国債の入札結果が低調だったことも、国債の売りを促す要因になったと報じられています。入札で応札が振るわないと、「今後も国債を消化しきれないのでは」という懸念から、価格が下がりやすくなります。
まとめると、今回の長期金利上昇は「日銀が利上げしたから」ではなく、「財政拡張懸念」と「日銀の利上げが遅れることへの懸念」という、方向性としては矛盾するようにも見える2つの要因が重なって起きている、と理解するのが実態に近いと考えます。
読者への実務的な影響を3つの切り口で整理する
長期金利の上昇は、私たちの資産形成にどう関わってくるのでしょうか。3つの切り口で見ていきます。
① 国内債券ファンドを保有している場合:価格は下がる方向に働く
「債券=安全資産」というイメージを持っている方は多いと思いますが、これは半分正しく、半分は注意が必要です。国債は満期まで持てば額面通りに償還されるため「元本が保証されている」という意味では安全ですが、満期前に売却する場合(investment信託を通じて保有している場合は、投信自体が市場で日々売買されているのと同じ状態)は、金利が上がると価格が下がります。
この感応度を表すのが「デュレーション」という指標です。ここでは、今回の新発10年国債(383回債、表面利率2.7%)を題材に、現在の利回り2.81%を基準として、修正デュレーションを計算してみました。

計算の結果、この国債の修正デュレーションは8.70でした。近似式(価格変化率 ≈ −修正デュレーション × 利回りの変化幅)を使うと、金利がさらに動いた場合の価格変化は次のようになります。
| 金利の変化 | 利回り水準 | 価格変化率(概算) |
|---|---|---|
| +10bp(0.10%) | 2.91% | 約−0.87% |
| +20bp(0.20%) | 3.01% | 約−1.74% |
| +30bp(0.30%) | 3.11% | 約−2.61% |
| +50bp(0.50%、3%到達シナリオ) | 3.31% | 約−4.35% |
数字だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、「元本保証」のイメージがある債券でも、金利上昇局面では価格が目減りする局面があるという点は、押さえておく価値があると考えます。
なお、この試算はあくまで新発10年国債1本を単純化したモデルです。実際に多くの方が保有している国内債券インデックスファンドは、短期から超長期まで残存年限が分散されているため、平均デュレーションはこの数値とは異なります。また、金利変化と価格変化の関係は厳密には直線ではない(凸性・コンベクシティがある)ため、この試算は一次近似である点にもご留意ください。
② 個人向け国債を検討している場合:利率は着実に上がっている
長期金利の上昇は、個人向け国債の利率にも反映されています。財務省が公表している最新の発行条件を確認すると、次のように推移しています。
| 募集月 | 変動10年 | 固定5年 | 固定3年 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月募集 | 1.74% | 1.86% | 1.51% |
| 2026年7月募集 | 1.80% | 1.95% | 1.56% |
(出典:財務省「個人向け国債(現在募集中)」、2026年7月3日時点の公表情報に基づく。税引前の年率)
固定5年・固定3年は発行時の利率が満期まで固定されるのに対し、変動10年は基準金利(10年国債の入札利回り×0.66)に連動して半年ごとに見直されます。今回のように長期金利が上昇局面にある場合、変動10年は将来の金利上昇を取り込みやすい一方、固定型はその時点の利率で確定する、という違いがあります。
個人向け国債は、国が元本を保証し、市場価格の変動を受けない(中途換金時を除く)という点で、①で説明した国内債券ファンドとは性質が異なります。長期金利の動きが「利率の上昇」という形で反映される商品と、「価格の変動」という形で反映される商品があることは、区別して理解しておきたいポイントです。
生活防衛資金の置き場所としての預金金利との比較は、以前の記事で詳しく確認しています。

③ 住宅ローン固定金利を検討している場合:波及は緩やかだが無関係ではない
住宅ローンの固定金利(フラット35など)は、長期国債の利回りを参照して決定される仕組みになっています。そのため、長期金利が上昇すれば、住宅ローンの固定金利も上昇圧力を受けやすくなります。
一方で、変動金利は政策金利(短期プライムレート経由)に連動するため、今回の長期金利の動きが直接影響するわけではありません。変動金利のシミュレーションについては、以前の記事で自分の借入条件をもとに試算しています。

データ出典
本記事で使用したデータ・報道の出典は以下の通りです(すべて2026年7月3日時点で確認)。
- 新発10年国債利回りの推移:財務省「国債金利情報」(2021年1月4日〜2026年6月30日)
- 2026年7月3日の2.81%到達:時事通信、NHKニュース、日本経済新聞、テレビ朝日(ANN)各社報道
- 個人向け国債の発行条件:財務省「個人向け国債(現在募集中)」「発行条件」各ページ
- 長期金利3%到達シナリオへの言及:時事通信(三井住友トラスト・アセットマネジメント 稲留克俊シニアストラテジスト、2026年7月3日配信)
まとめ:読者の状況別に整理する
① 国内債券インデックスファンド・バランス型ファンドを保有している人 今回の長期金利上昇は、保有ファンドの基準価額にマイナスに働く方向です。ただし、多くのファンドは残存年限が分散されているため、単一の10年国債ほど感応度が高いとは限りません。保有している場合は、目論見書や運用報告書で「実効デュレーション」の記載があるか確認してみることをおすすめします。
② 個人向け国債の購入を検討している人 2026年7月募集分の利率は、6月募集分よりも全タイプで上昇しています。固定型・変動型のどちらを選ぶかは、今後の金利見通しに対する考え方次第であり、どちらが絶対的に正しいという結論はありません。中途換金時のペナルティなど、仕組み面も踏まえて検討するとよいと考えます。
③ 住宅ローンの固定金利を検討している人 長期金利の上昇局面では、固定金利が今後も上昇する可能性があります。ただし、住宅ローン金利は各金融機関が独自に設定するものであり、長期金利の動きがそのまま反映されるとは限りません。実際の適用金利は、金融機関の最新の発表で確認することをおすすめします。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。金利の将来動向を保証するものではなく、記事内の試算は一定の前提に基づく概算です。投資・借入等の意思決定は、必ずご自身の判断と責任において行ってください。


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